成瀬巳喜男『杏っ子』

◆『杏っ子』監督:成瀬巳喜男/1958年/東宝/110分
原作は室生犀星。高名な小説家を父に持つ娘と結婚した男が、小説家を目指すが能力が無く挫折を繰り返す。その過程で、酒に溺れて生活が荒れ、妻にもひどい態度を示すようになる。妻の父の存在が、どうにも我慢できないのだ。一方、妻は夫に何度ひどいことをされても耐え続けていくだろう――。
夫が能力もないのに、小説を書き続ける強情さも凄まじいのだが、夫の酷い扱いに対して耐え続ける妻の強情さも凄まじい。二人は、強情さという点で共通しているのだ。二人とも意地っ張りなのだろう。
小説が売れなくて、妻の父を罵倒している夫の姿は、私自身の姿だなと感じて、情けない人間だと思いつつも憎めない。能力がないのに、あきらめないで、他人の成功を罵倒しているところなどは、本当に私自身の姿だなと思う。私も、この物語の夫と同様に、ちっぽけなでつまらない人間なのだな…。原作の小説が読みたくなってきた。