山本薩夫『華麗なる一族』

◆『華麗なる一族』監督:山本薩夫/1974年/芸苑社/211分
原作は山崎豊子。関西の都市銀行の頭取りである万俵大介(佐分利信)とその家族を中心に、野望とその挫折、権力争いなどを描く。山本薩夫らしい重厚な作品。上映時間は3時間を超えるスケールの大きさが魅力。どの登場人物も強烈な個性を持っている。長男鉄平は自分の夢のために仕事に全力を向けているのだが、これも父の野望実現に利用され、挫折してしまう。しかも、大介はこの長男をひそかに憎んでいる。それは、かつて大介の父親(仲代達矢の二役)が大介の妻を犯したからだ。長男は、その時にできた子だと思いこんでいる。ここに、父と息子の対立という物語が現れる。大介とその父の対立は、大介と長男の対立へ変換される。仲代達矢が二役を演じるのもそのためだ。
また、大介の妻寧子は公家出身ということで家事が一切できず、ただ趣味に生きる女性ということになっている。家のなかでは、役に立たない無用の人物にさせられているといってもよい。大介には愛人がいて、この愛人が無用の妻に成り代わって家のなかのこと一切を取り仕切っている。この愛人が、大介の子供たちの結婚を取り仕切り、大介の政治的活動を裏側から支えている。この野心的な愛人相子を京マチ子が演じている。肉体派の京マチ子らしく、そのエロチックな身体が強調される。しかし、この身体のいやらしさは、彼女の怪しげな出自とともに、下品さも同時に見て取れる。公家の妻と下層階級出身の愛人が、大介を中心として対立するだろう。
この映画では、階級の低い者は概して下品な人物として描かれる。たとえば、西村晃が演じる「綿貫」という男は、たたき上げで経営のトップに上り詰めた男だが、日銀から天下ってきたエリートの頭取(二谷英明)と比べて、ひどく下品な男であった。特に食べ物食べるときに、くちゃくちゃと音を立て、ズズズッとコーヒーを飲む。そして楊枝を加えてシーシーと音を出す有様だ。この下品さは、大介の愛人相子(京マチ子)のいやらしい肉体と相通じるところがある。
こうして、この映画にはもう一つの対立である階級対立も浮かび上がってくる。この物語は、父と息子の対立と階級対立という二つの対立で構成されていると言える。物語は、最後にこのような対立を、ひとり大介だけが勝ち抜いたように見えるのだが、大介もまたほんの小童にすぎず、その背後にはもっと大きい陰謀が渦巻く世界があることを示唆する。
ところで、この物語で強く印象に残った場面は、大介が愛人の相子と別れる場面だ。大介は愛人の存在は、今後の仕事に差し支えるからと、あっけなく相子を切り捨てる。だが、大介を愛していた相子は、そう簡単に納得しない。そのとき、妻寧子がそっと二人の近くに寄り、相子に「あなたにも子どもがいればねえ」と冷たくつぶやく。それまで、相子に蔑まれ、家のなかでは役立たずの女であった寧子が発した相子への強烈な一撃。この寧子の一言は、ゾッとするような怖さ、あるいは凄味を感じた。