茂木健一郎『脳と仮想』

茂木健一郎『脳と仮想』新潮社、2004年9月
小林秀雄賞を受賞した本ということで興味を持った。最新の脳科学についての本だと予想して読み始めたのだが、中身は普通のエッセイだったので、やや拍子抜けした。しかも、合理では捉えきれないものがあるといった調子の科学批判は、もはやおなじみのものだ。小林秀雄が話題となっているから、賞がもらえたのだろうかと皮肉が言いたくなるような本だった。私は、情緒的な自己語りよりも、バリバリの科学論を期待していたのだが。それは別の本を読まないといけないのか。
茂木氏は、「仮想」が人間の生にとって切実なものであることを説く。これは虚構に対していかなる態度をとるのか、その問題に対する一つの解答だと思う。
茂木氏は、脳内現象一元論、あるいはクオリア一元論といった考え方をする。そこから茂木氏は、現実も仮想も「一リットルの脳内現象」であることを指摘する。どちらも脳内現象にすぎない。私たちが「現実」だと感じているものは何か。それは、「脳の中の一千億の神経細胞の活動によって生み出され、私たちの意識の中にあらわれる様々な表象が、複数の経路を通って一致し、ある確固とした作用をもたらすとき、私たちはそのような作用の源」(p.95)だという。「仮想」は、このような一致に至らずに浮遊しているもの、ということになる。「現実」は私たちの生の確固として基盤となるが、「仮想」は自由をもたらしてくれるだろう。
ベースとなるクオリア一元論のためか、本書はまるで現象学者が語るようなエッセイとなっている。たとえば、竹田青嗣などの本を読んだ人なら、この本の内容は見覚えがある懐かしいものだと感じるのではないだろうか。

脳と仮想

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