成瀬巳喜男『はたらく一家』

◆『はたらく一家』監督:成瀬巳喜男/1939年/東宝/65分
原作はプロレタリア作家の徳永直。貧しい一家を描いているのだが、プロレタリア風の作品だなとは思わなかった。この映画も、ラストシーンが良かった。
家族が多くて、父の収入が少なく、子供たちは小学校を出るとすぐに働きに出される。しかし、長男がこのまま働いていても、賃金が安くて、結婚もできないし将来親の面倒を看ることもできない、だから5年間だけ時間をくれ、その間に学校に行って、技術を身につけたいと父に希望する。
しかし、ギリギリの生活をしている一家にとって、長男が働きをやめ学校に行くために家を出て行くことは、さらに生活が苦しくなることは目に見えている。しかも、長男が家を出て学校に入るのを認めたら、優秀な弟も真似して出て行くかもしれないという心配もあり、母は頭から反対している。その間で、父は思い悩む。
行き詰まった父は、小学校の先生に来てもらって、一家で話し合いをすることになり、父は家を出て行っても良いと子供たちに言う。しかし、結局長男が家族を置いて、家を出て行くかどうかは語られないで映画は終わる。注目は、このラストシーンだ。
なんと、弟たちは部屋のなかで、とつぜんでんぐり返しをはじめるのだ。何度も何度も転がる弟たちの映像。これが素晴らしいのだ。この予想外の幕切れに驚いてしまう。どうしていきなりでんぐり返しなのだろう?。その動機も意味もまったく分からないが、身体の回転運動を見ていると、これで良かったのかもしれないと思う。妙な説得力がある映像なのだ。このでんぐり返しの映像は必見!