成瀬巳喜男『歌行燈』

◆『歌行燈』監督:成瀬巳喜男/1943年/東宝/94分
原作は泉鏡花。『鶴八鶴次郎』では、三味線の名人を山田五十鈴が演じていたのだが、この作品では、山田五十鈴は三味線もなにも出来ない芸者を演じている。何もできない芸者に能の舞を教えるのが花柳章太郎
この舞を稽古する場面が、圧倒的に美しい。松の林のなかで、二人は舞の稽古をする。この木々を抜けて、林のなかに差し込んでくる光の美しさ。これは本当に見事な映像。ベルトリッチの『暗殺の森』の森のシーンなんかを思い出してしまう。
花柳章太郎は家を勘当されていて謡を歌うことを父に禁じられていたが、その禁止を破ってしまう。禁止を破らせたのは、林に差し込む光にのせいにちがいないと思ってしまう。この美しいシーンを見るだけでも、この作品は価値がある。とはいえ、この場面以外ももちろん素晴らしい。