成瀬巳喜男『鰯雲』

◆『鰯雲』監督:成瀬巳喜男/1958年/東宝/カラー/132分
成瀬はあまりカラーの作品を撮らなかったようだ。この作品は、成瀬のはじめてのカラー作品である。脚色を担当したのが橋本忍という点も気になるところ。
戦後の農地改革によって、「父」を中心とした家父長制的な「家」が解体していく様子を丁寧に描き出した作品だ。これは、ワイドで撮られていたと思う。なので、横長の画面なのだけど、あまりその画面を有効に利用していなかったように思えた。ワイドスクリーンのために、空や海や田んぼの映像を挿入したのかなと思った。
物語は良くできていて、はじめは「家」を守ろうと、家族や親族までも抑圧・支配しているようであった「父」だが、時代の流れに付いていけず、やがては子供たちは独立していき、父にとって守るべき最後の砦であった土地も売り払うことになり、ここにおいて父が絶対的な存在として君臨する家父長制的な「家」は崩壊に至る。はじめは理不尽な父の姿ばかりが強調されていたが、次第に実は父もまた「家」という観念に抑圧されていた不自由な人物であったことが分かってくる。時代に取り残されてしまう悲哀もある。父もまたある意味犠牲者であったのだと。
ただ単に「父」や「家」を断罪して終りという物語ではないところを、私は評価したい。