成瀬巳喜男『お國と五平』

◆『お國と五平』監督:成瀬巳喜男/1952年/東宝/92分
原作は谷崎潤一郎。成瀬にしては珍しいと言われる時代劇。成瀬にとって、時代劇はこの映画2本目であるという。しかも、最後の時代劇でもある。出演は、木暮実千代山村聡など。藤原釜足が出演しているのだけど、彼の独特のしゃべり方は、どんな役をやっても胡散臭い雰囲気が出て面白い。この映画では、医者の役をやっているが、やっぱり信頼が出来なさそうな雰囲気の医者を演じ、笑いをとっている。
この映画は、蓮實重彦が良い作品だと言っていたので、それならばぜひ見ておこうと見に行ったのだけど、私の好みではなかった。溝口あたりが撮ったほうが良かったのではないかと思う。
この作品で注意しておきたいのは、成瀬の1930年代の作品に頻出するカメラの動きが見られたことだ。その特徴的なカメラの動きとは、人物にぐぐっと寄ってクロースアップにしたり、逆にクロースアップされた人物をカメラがすっと引いていき、バストショットなりミドルショットへ移行する、そのような手法のことだ。もちろん、こうした手法が使われるのは、人物の感情が高まる瞬間である。
私は、このカメラの動きは、戦前の作品の特徴だと推測していたのだけど、戦後でもまだ使われていたのだった。この事実は、覚えておきたい。