川端康成『天授の子』

川端康成『天授の子』新潮文庫、1999年6月
「故園」「東海道」「感傷の塔」「天授の子」の4編が収められている。そのうち、「故園」と「東海道」は未完である。文庫にある川端香男里氏の「覚書」を参照すると、「感傷の塔」以外は全集や単行本には未収録だったという。「故園」「東海道」は未完という事情もあったし、「天授の子」はども自伝的な要素が強く、身近な者たちへの配慮があったらしい。たしかに、「故園」と「天授の子」などは、ついつい川端自身の人生と重ねて読みたくなってしまう。
東海道」という作品は、ポストコロニアル研究に感心がある人にとっては、興味深い作品だと思う。というのも、この作品は、戦時中の昭和18年に『満州日日新聞』と『大連日日新聞』で連載されたものなのだ。しかも、内容は日本人の「旅の心」を研究しているという「植田」という人物を中心人物において、古典文学を散策しながら、日本文学の「伝統」を見つめなおしていく作業をしている。当時は、日本浪漫主義があったので、内容自体は今さら驚くべきことではないのかもしれないけど、これが植民地に送られて連載されていたということが関心を引いた。だれか、このあたりの研究をやっている人がいるのだろうか。植民地で、こうした作品が発表されていたことの意味など詳しく知りたいものである。

天授の子 (新潮文庫)

天授の子 (新潮文庫)