凄すぎる

◆『椿三十郎』監督:黒澤明/1962年/96分
この映画は、ずっと気になっていて、見たいなあと思っていた。というのは、数年前、京都映画祭で時代劇映画を特集していた。その時行われたシンポジウムに蓮實重彦が出ていた。他には、山根貞夫氏や加藤幹郎氏とか、あと海外から映画研究者や評論家が参加していたと思う。
その時の話は今はほとんど覚えていないのだけど、唯一蓮實氏の言葉だけ今でも覚えている。それは、時代劇をダメにしたのは黒澤だと、そんなことを例の挑発的な感じで述べていた。もちろん、この評価をどういうふうに解釈したらよいのか、私にはさっぱり理解できなかった。(今でもよく分からない。)
で、その時に『椿三十郎』の名前が出てきたのだ。この映画の何がダメだったかというと、有名なラストシーンのことだ。三船敏郎仲代達矢が対決をするシーンだが、見た人なら分かるように、ここで斬られた仲代達矢から異常な量の血しぶきが吹き上がるのだ。きょうは、このシーンをぜひとも確かめたくて見に行ったのだけど、本当に明らかに誇張だ、と分かる量の血しぶきなのである。ここはシリアスな場面だと思うが、この血しぶきを見ると、思わず笑ってしまう。
たしか、蓮實重彦は、黒澤がこの映画であんな血しぶきを使うから、その後の時代劇で真似するようになったのだ、というようなことを話していたと思う(記憶違いかもしれないけど。)
この映画、けっこう面白くて、この場合の面白いというのは文字通りお笑い系の娯楽映画だ、ということだ。随所にギャグが入っていて楽しい。実際、敵方に囚われている上司の奥方は、まったく緊張感のない人物として設定されていて、椿三十郎に「乱暴はいけませんよ」なんて釘をさしたりもする。そのためなのか、ラストシーン以外の立ち回りでは、人を斬っても血しぶきなど全然出てこない。やむなく三十郎が敵方の多くの人間を斬ったとき、血など現れていなかったと思う。
なのに、最後の対決シーンだけは、思いっきり血しぶきを出す演出をした。これはどうしてか?今のところは、私には分からない。とはいえ、この対決シーンはなかなかの名シーンだと思う。
ところで、仲代達矢のまなざしは凄味があって、ちょっと怖いなあといつも思う。何をやるのか分からないというような「狂気」を感じる。三船敏郎の存在感と、仲代達矢の狂気を帯びた「眼」が、『用心棒』やこの『椿三十郎』の見所かもしれない。
それに比べて、加山雄三田中邦衛の情けないこと。まあ、役柄が情けない役なので仕方のないところもあるが、特に加山雄三の顔にしまりがない。本当に下手な役者なのだろうなあと思う。