増田聡『その音楽の<作者>とは誰か』

増田聡『その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権みすず書房、2005年7月
年末に『読書新聞』の「'05下半期読書アンケート」を見ていて、その回答者の一人である四方田犬彦が、この本を挙げていた。四方田は「最先端の音楽研究であるが、実は『映画史』のゴダール以降の映画研究家こそ必読」と述べていて、そうであるなら、これは急いで読まねばと思った次第。
読んでみると、たしかに面白い。「作品」「作者」という概念を根本的に問い直す労作である。岡田氏の『西洋音楽史』を読んで、19世紀的なもの、つまり「ロマン派の亡霊」が依然として残っていることを知ったが、本書ではこの「ロマン派の亡霊」が、ポピュラー音楽の実践において、いかにずれているのかを丁寧に記述している。本書では、ずれの分析をクラブ・ミュージックや音楽産業、そして著作権の3つの領域で行っている。その結果、一言で「作品」と言っても、ポピュラー音楽では「フォーク音楽的」と「レコード音楽的」の二つの様態が混在していることが確認され、また「作者」の概念においても単一の「作者」は幻想にすぎず、音楽実践のなかで拡散して、その都度「作者とは誰か?」を問い続ける状況にあることが見えてくる。
「作者」が拡散しているとなると、研究者や批評家は、自分が誰を(何を)「作者」とするのか、より自覚的にならざるを得ないのだろう。私はいまだにロマン派的(というかロマン派を崇拝しているのだが)なので、あたりまえのように映画を監督中心で見たり語ったりしてしまうが、言うまでもなくポピュラー音楽と同様に映画も集団的制作であるのだから、この見方は多くの可能性を捨象しているわけだ。本書によって、もう一度「作者」概念について勉強し直さないといけないと思わせられた。バルトを真似して「作者の死」と言っているだけではダメなのだ。

その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権

その音楽の<作者>とは誰か リミックス・産業・著作権