四方田犬彦『人間を守る読書』

四方田犬彦『人間を守る読書』文春新書、2007年9月
比較的最近に書かれた書評などが集められている本。
こういう本を読んでいると、紹介されている本が読みたくなってくる。四方田犬彦がカバーする範囲は毎度のことながら幅広い。本書でも、たとえば『風姿花伝』のような古典的作品から、マンガに至るまで、さまざまなジャンルの本が評されていて興味深い。
本書のなかで著書は、もっとも悪い本の読み方として「勉強のために、仕事のためによむこと」を挙げている。バシュラールのいうアニムスの読書のことである。それに対し、理想的な読書として、「ただ好きな本だけを気の向くままに読み、飽きたら途中で放り出し、またその来になったら手に取り直すといった、気ままな戯れのうちに読む」ということを述べている。すなわちアニマの読書のことである。これは、まったくその通りだと思う。
論文を書きながらつくづく感じたのは、どんなに面白い本でも、勉強のために読み始めると、途端にその魅力が失われてしまうということだ。読書が苦痛になるのは、こうした読み方ばかりをしているときである。勉強とか仕事と関係なく、ベッドの上でズルズルと本の世界に浸っていくのが、人生における幸福な時間の一つだと言えるだろう。

人間を守る読書 (文春新書)

人間を守る読書 (文春新書)