笙野頼子『母の発達』

笙野頼子『母の発達』河出文庫、1999年5月
笙野頼子はいろんな評価のされ方をする作家」だと、文庫の解説で斎藤美奈子は言う。たとえば「SF的な幻想文学の書き手」「ニューウェイブ私小説作家」「土着的・呪術的な神話世界の再現」「前衛的で難解」という感じである。
私の印象は、「前衛的で難解」というものだ。これまで笙野頼子の作品をいくつか読んできたが、毎回「難解だ!!」と思う。しかし、別にこれが原因で笙野頼子が嫌いになることはない。むしろ「難解」であるがゆえに強く惹きつけられる。そして、いつか笙野作品を読み解きたいとも思っている。
そんなわけで、本作も私には「難解」であったのだが、「母の縮小」「母の発達」「母の大回転音頭」の3つの章で構成されている本作は、このタイトルだけ読んでも面白い。「大回転音頭」って何だ? と不思議に思う。読めば分かるが、タイトル通り、最後に「お母さん」が回転する。

 母が回転していた。大回転だった。万華鏡のように、母が回っていた。九十度回り、百八十度回り、二百七十度回り、元に戻ろうとしていた。そうして、ついに三百六十度回転した。(p.178)

成瀬巳喜男の『はたらく一家』という映画でも、子どもたちがラストで唐突にでんぐり返りを始める不思議な場面があったのだが、その場面を思い出してしまった。小説の主人公の「ヤツノ」は、母の回転を見て、「それが、母の全体を、母の素材感や触感や母の思想や、母の感性や母の革命性、母の底力の総てを保ったままで、母を完璧に表現する手段なのだと」(p.177)悟っている。なんだか私にはよく理解できないのだが、とにかく回転してしまうのが面白い。

母の発達 (河出文庫―文芸コレクション)

母の発達 (河出文庫―文芸コレクション)