半村良『産霊山秘録』

半村良『産霊山秘録』集英社文庫、2005年11月
久しぶりに面白い小説を読んだ。歴史の裏側に、「ヒ」という特殊な能力を持った一族がいた。彼らは戦いのない世界を求めて人目に触れず活動する。彼らの特殊な能力にテレポーテーションがある。「ヒ」は、鏡と珠と剣の三種の神器を使って「念力移動」ができる「古代の神の末裔」であった。――
時代は、戦国時代から始まり、やがて「産霊山」の力を知った家康の天下となる。その後幕末を舞台に「ヒ」の血を受け継ぐ坂本龍馬の活躍が語られ、最後は戦国時代からB29の爆撃を受けている東京にテレポートしてしまった「ヒ」の「飛稚」の運命が語られる。時空を超えて「芯の山」を探し続ける「飛稚」は、なんと月にまで行ってしまう! しかも驚くべきはこの「飛稚」よりも先に月にテレポートしていた「ヒ」の一族がいたのだ。物語世界のスケールの大きさが魅力的な作品である。
またこの作品は非常に批評的性格を持っており、社会批判やイデオロギー批判などを読むことができるが、そのなかでも興味深いのは「女」の問題である。「ヒ」は、歴史の表舞台には現れないものであるが、そのなかでもさらに闇へ追いやられていたのが「オシラサマ」と呼ばれる「ヒの女」たちなのである。「オシラサマ」は、顔が無く、太陽の光を浴びることもできず、また皮膚に衣が触れても身体がかぶれて死んでしまう。「ヒ」の男たちが特殊な能力を使って「歴史」を動かしてきた一方で、「ヒ」の女たちは裸のまま闇の世界で生き続けなければならなかった。歴史における「女」の立場を批判的に語っていると言えよう。

産霊山秘録 (集英社文庫)

産霊山秘録 (集英社文庫)