田中千世子『みやび 三島由紀夫』
◆『みやび 三島由紀夫』監督:田中千世子/2005年/日本/74分
シネ・ヌーヴォで上映中の作品で、きょうは上映前に監督の田中千世子氏による舞台挨拶があった。ここでは、三島と「伝統」の関係について、短いながらも興味深いお話をされた。
映画は、直接には三島と関係がない人々が、それぞれの「三島由紀夫」について語るドキュメンタリーである。現代のアーティストや外国の方々が、「三島由紀夫」をどう考えているのか。そこからあらたな「三島由紀夫」像が浮かび上がってくるのか。これが映画のテーマとなる。
田中千世子監督は、映画評論家でもあり、また監督しては能に関する映画を撮っている。そのためであろうか、インタビューに答える人には能楽師の関根祥人氏や狂言師の野村万之丞氏がいる。ほかには小説家の平野啓一郎氏がいたりして、なかなか面白い人選だと思った。文学、舞台、美術、これらのジャンルに携わる人々がインタビューされていた。
たしかに、三島には『近代能楽集』という傑作もあるし、戯曲作家としても優れた作家であったので、こうしたジャンルに携わる人々の話は興味深いのだが、欲を言わせてもらえれば、田中監督は映画評論家でもあるし、映画監督でもあるのだから、映画界からも誰かに「三島由紀夫」について語ってもらっても良かったのではないかと思う。三島には、よく知られている『憂国』という映画作品もあるし、『からっ風野郎』という映画では主演もし、かなりたくさんの映画評も書いていた。三島と映画の関係は、芝居と同じくらい深いものだったとも言えるのだから。