デヴィッド・ボードウェル『小津安二郎』

デヴィッド・ボードウェル(杉山昭夫訳)『小津安二郎 映像の詩学青土社、1992年11月
ロシア・フォルマリズムを受け継いだ本書の分析方法は、なるほど小津映画のカットを精緻に分析し、その内在的規範を抽出している。この緻密な映像分析にはただただ驚かされる。小津の映像の秘密が分かったような気になってしまう。
しかし、不満だなと思うこともなきにしもあらず。映画の中からカットを取りだしてきて、そのカットに何が映っているか、どんな文脈に置かれているのかなど分析しているが、その分析にどうしても映画の「運動性」というものを感じないのだ。静止画を分析しているような印象を受ける。たしかに、緻密なカットの分析から、ビール瓶の「運動」を指摘していたりもするので、まったく映画の「運動性」を無視しているわけではない。だけど、私には物足りなかった。
これは、もちろん、先に蓮實重彦の『監督小津安二郎』を読んでしまっているので、余計にそう感じてしまうのだろう。静止画としてではなく、運動として映画を見ること。映画批評の面白さと難しさがこの点にあることは、よく知られているだろう。阿部和重の小説ではないが、映画において、「運動」がもたらす思いがけない「変化」を、いかにして言葉で伝えるか。映画批評における重要な課題である。

小津安二郎 映画の詩学

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