これも泣ける

◆『父ありき』監督:小津安二郎/1942年/松竹大船/白黒/サウンド版/94分
今回の小津映画特集で、絶対に見ておきたいと思った映画が、この『父ありき』。有名な親子の釣りのシーンを、何が何でも見なくてはいけない、と。
きょう、ようやくその釣りの場面を見ることができて感激した。父と息子の釣り竿が正確に同じ動作をくり返すこの場面は、やっぱり感動する。こんな映像を撮ってしまう小津って一体何者なんだ?と思う。
よく考えてみれば、変な釣りの場面で、いくらなんでも親子でまったく同じタイミングで、釣り竿を上げて川に垂らすという動作を何度もくり返しているのを見ていると、おかしさがこみ上げてくる。ほんとにこの二人は釣りをする気があるのかな?と考えてしまうのだ。でも、その正確な釣り竿の軌跡は美しい、忘れがたい場面なのだ。
それから、前々から気になっていたのだけど、小津映画には汽車がよく登場する。映画と汽車は、それこそリュミエールの時から宿命的に結びつけられてきたものだけど、小津の映画のなかでも汽車の到着から物語が始まり、汽車の去っていくことで物語は終るという説話的な機能があるみたい。
たまたま私が見た『晩春』にしろ『東京物語』にせよ、そしてこの『父ありき』で汽車が出てきただけかもしれないが、小津映画における汽車のトポスは気になるところ。思うに、小津映画では「移動する」ことが必然的に物語を引き寄せてしまうのではないか。
あともう一つ気になるのは、この『父ありき』には、なぜか女性が極端に少ない。主要な女性は、最後に息子の嫁になる女性ぐらいじゃないか。あとはお手伝いさんとか会社の事務員さんがいるぐらい。どうして女性が排除されているのだろうか?
今回見た『父ありき』は、かなりフィルムが傷んでおり、音声や映像が途切れ途切れになっていたのはほんとに残念なことだ。きれいな状態のフィルムを見たいと願う。