成瀬巳喜男『芝居道』

◆『芝居道』監督:成瀬巳喜男/1944年/東宝/83分
成瀬の「芸道もの」と呼ばれる作品の一つ。44年ということで、戦争中に作られた作品だ。それを意識してなのか、物語の時代は明治だが、その背景に日清戦争の勝利に沸く日本を置いている。だからとって、戦争を賛美するようなプロパガンダの映画ではない。出演は、長谷川一夫山田五十鈴の『鶴八鶴次郎』のコンビだ。
今回の特集上映で、はじめて「芸道もの」と呼ばれる作品を見たわけだが、どれもけっこう面白い。戦前の成瀬も良いなと思う。
物語は、まさに「芝居道」を極めんとする興行主が、若手の有望役者(長谷川一夫)を一人前の役者へと目覚めさせるというもの。そのために、興行主は、少々人気が出てうぬぼれていた役者を、付き合っていた女性(山田五十鈴)とも別れさせ、東京に行かせ、東京の芝居のなかで役者として、また同時に人間としても成長させる。
こうして一人前の役者となって彼が、大阪の興行主のもとに戻ってきたラストシーンがすばらしい。興行主の家で、長谷川一夫山田五十鈴が再会する場面である。この部屋にはランプが置かれている。この灯りを中心に、人が集まるシーンがとても美しい。ランプの光に照らされる顔。その顔は、久しぶりの再会にみな喜びに溢れている。ランプの光のやさしさに感動してしまう。