川島雄三『暖簾』

◆『暖簾』監督:川島雄三/1958年/宝塚映画/123分
原作は山崎豊子。大阪の昆布屋の主人吾平の一代記。この主人公の吾平を森繁久彌が、演じている。吾平の妻千代を山田五十鈴が、そして吾平の丁稚奉公時代からの仲間であるお松を乙羽信子が演じている。森繁久彌は、吾平の息子の孝平も演じる。父と息子の二役を演じているのだ。大阪の商人を森繁久彌が好演している。そして、山田五十鈴と森繁との掛け合いも面白い。山田五十鈴は素晴らしい。
森繁久彌の若い頃をよく知らなかったのだが、この映画では非常に軽快な動きをしていたので驚いた。川島雄三のテンポの良さと、森繁久彌の運動性が見事だった。
この映画を見て思うのは、川島雄三は群衆シーンを撮るのが非常に上手いということだ。物語のはじめで、吾平が本家の薦めで結婚が決まってしまい、ひそかに結婚しようと思っていたお松と別れる場面がある。この場面は、十日戎の日であって、戎神社には大勢の参拝客でごった返している。この群衆のなかで演じられる吾平とお松の別れの場面は、『天井桟敷の人々』のラストシーンに匹敵する名場面だと思った。吾平とお松が、群衆によって引き裂かれていくシーンがすばらしい。また、群衆シーンでは、孝平が闇市でチンピラと喧嘩する場面も見逃せない。闇市の猥雑さがよく出ているし、森繁の運動性の良さに感嘆してしまう。川島雄三の良いところが、たくさん見ることができる名作だと思う。