柄谷行人『<戦前>の思考』

柄谷行人『<戦前>の思考』講談社学術文庫、2001年3月
以前に読んだことがある本かもしれないが、久々に読みかえしてみた。この本に収められているのは、90年代前半に行われた講演だ。語り口調なので、かなり読みやすく、内容も理解しやすい。
「議会制の問題」という箇所を読んでいて、なるほどと思った箇所が一つあった。ここで、自由主義としての議会制は「無記名投票(秘密投票)」に基づいていると述べている。議会主義の本質は、秘密投票にあるというのだ。(参照、p.53)
誰がどのような投票をしたかが分からないことが重要なのだ。たとえば、旧ソ連やあるいは日本の農村部において、投票率が高いことがあった。それは、投票を棄権することができなかったり、誰がどう投票したのかが他人に分かってしまう(と思っている)からだという。
このあたりの議論は、最近の監視社会と匿名性の問題に接続させることができるのではないかと思う。この柄谷の話とずれてしまうけれど、匿名で表現することができる状態にあるということはけっこう重要なことなのかもしれない。
もう一つ気になる文章。柄谷は、ハイエクの次の文章を引いている。

われわれは自由であっても、しかし不幸であることがありうることを認めなければならない。自由とは、よいことばかりを、あるいは災いの少しもないことを意味するものではない。自由であることは、ある場合には、飢える自由、高価な過ちを犯す自由、または命がけの危険を冒す自由を確かに意味するかもしれない。(『自由の条件』)

自由には、こうした面もあることを忘れてはいけない。でも、こんな不幸を考えてしまうと、やっぱり「自由」なんて面倒だなと思ってしまう。自由であっても、自由がなくても、人は不幸にしかなれないのか…。

<戦前>の思考 (講談社学術文庫)

<戦前>の思考 (講談社学術文庫)