柄谷行人『意味という病』

柄谷行人『意味という病』講談社文芸文庫、1989年10月
以前に一度読んだが、再読してみる。以下の文章に興味をもつ。

 私は子供のころ、あるテリトリーの外に出るのが怖かった。今から思えばとるにたりない地域まで歩いて行くことが大冒険だったわけである。怖かった理由は二つに分けて考えられる。一つは、「共同体」の外に出るということへの恐怖からくる。これはまったく幻想的なものである。(p.265-266)

もう一つの理由は「感性的なもの」だと記している。こうした恐怖は、おそらく子どものころ誰でも感じるのかもしれない。それにしても、後に「共同体」から別の「共同体」への「命がけの飛躍」という他者論を展開する柄谷行人の底には、実は「共同体」から出ることの恐怖があったのだと考えるとおもしろい。作者の実存とエクリチュールを単純に関連させて解釈するのは慎まねばならないが、案外思想というものは素朴な経験が背景となっているのかもしれない。また、子どものころの空間感覚が、個々の批評家の思想の原点となることが多いのかなと思う。

意味という病 (講談社文芸文庫)

意味という病 (講談社文芸文庫)