中村真一郎『戦後文学の回想』

中村真一郎『戦後文学の回想』筑摩書房、1963年5月
自身と関係のあった文学者、研究者との交流、関わった同人雑誌について回想している。戦中から、戦後あたりの文壇の状況や雰囲気がよく分かる面白い本。同人雑誌が、いかに文学者の交流を活発にし、そこから多くの文学者を生み出してきたのかが理解できるだろう。この世代の作家にとって、文学の場とは同人雑誌にほかならなかった。
前田愛は、中村真一郎のモチーフを、1)西欧的な本格小説の擁護、2)私小説自然主義文学への攻撃と指摘していた。この指摘が気になって本書を読んでみた。
本書の最後に、中村真一郎自身の読書体験や文学観を披露している。そのなかで近代の日本文学者について、こう述べている。近代の日本文学は、西洋文学から文学を学んできた。しかし、この場合の「西洋文学」は「浪漫派以来」の文学に限定されていた。したがって、「浪漫主義的態度」=西洋文学というふうに文学者は受けとめてしまった。
だが、文学というのは、西洋においても、たとえば漢文学のように、あるいは日本の王朝文学のように、「公」のものだ。文学は、個人の自己解放でも自己告白でもない。浪漫主義は個人の自我の拡大をもたらしたが、それは正統的な文学に対する反措定にすぎない。あくまで古典主義があっての浪漫主義なのだ。
しかし、日本の近代文学者は、反措定のほうへ目が行き、正統には注目することがなかった。西洋文学の理解が一面的であったのではないか、とまとめている。
けっこう面白い見方だなと興味を持った。文学は「公」のものである、という考え方も注目できるだろう。中村の文学観は、再検討に値するのではないだろうか。