講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見15』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉』講談社文芸文庫、2003年10月
第15巻のテーマは、「笑い」。この巻を通して読んで分かったこと、それは「笑い」は難しいということだ。なんだか、どの作品も「笑い」をねらいすぎて、「ああ、これは笑いをねらっている」と感じると途端に作品の魅力が無くなってくる。狙った「笑い」ほど退屈なものはない。

  • 獅子文六「無頼の英霊」…△、戦争で死んだはずの男が帰ってくる!。
  • 舟橋聖一「華燭」…△、「笑い」を狙う時、その方法の一つに「過剰」というものがある。極端な人物を登場させて、そのおかしな言動を笑うというもの。この作品の主人公も「過剰」な人間の一人だ。
  • 正宗白鳥「狸の腹鼓」…△、狸と人間の争い。
  • 小沼丹「カンチク先生」…○、まあまあ面白い。
  • 開高健ユーモレスク」…○、面白いと同時に怖い。借金をしてそれを踏み倒すことを趣味としている男に、主人公がターゲットとなり、その男の過剰な攻勢に負けた主人公は男の金を貸すことになってしまう。二人のやりとりは面白いものの、ラストは不気味な笑いが聞こえてくる。
  • 堀田善衛「ルイス・カトウ・カトウ君」…×、「移民」文学と言えばよいのだろうか。キューバに移住した日系人家族と作者の交流を描いている珍しい作品。片言の古い日本語を話す「ルイス・カトウ・カトウ君」のしゃべりが、どうにも読みにくい。
  • 花田清輝「伊勢氏家訓」…△、これも読みにくい文章。わざと読みにくいスタイルと取ることで、読者を煙に巻くという高等なテクニックを使っている。けど、私は好きではない。
  • 筒井康隆「寝る方法」…○、「形式」で笑いを創造するといえば、この筒井康隆か。ナンセンスの極致といえる。ただ「寝る」という行為を、過剰なまでに言葉を費やして、「寝る」ことをマヒさせてしまう。恐ろしい作品だ。
  • 北杜夫「箪笥とミカン」…◎、この巻で唯一良いなと思った作品。北杜夫は安心して読める。
  • 杉浦明平「海中の忘れもの」…×、退屈。
  • 椎名誠「日本読書公社」…×、狙いすぎ。諷刺文学は、一歩まちがうと、ただの嫌味にしか思えない。

戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見15 笑いの源泉 (講談社文芸文庫)