島本理生『一千一秒の日々』

島本理生『一千一秒の日々』マガジンハウス、2005年6月
連載小説ということなので、各章はもちろん繋がりがあるのだけど、それらはゆるやかに繋がっているで、各章を一つの短篇として読むこともできるのではと感じた。各短篇を集めてみると、一つの物語として浮かび上がってくる、そんな作品。
相変わらず、「水」あるいは「雨」というモチーフを多用する著者なのだけど、今回はもう一つ別のモチーフを前面に出してきた。そのモチーフは「手」(「腕」も含んで)だ。
「手」のモチーフは、おそらく『ナラタージュ』(ISBN:404873590X)あたりでもあったように記憶している。というか、『ナラタージュ』を読んでいるときに、もしかするとこの作家は「手」に何か思い入れがあるように感じていた。今回の作品で「手」に対する視線があらゆるところで登場していて、「やっぱりな」と思う。

「私と手をつないで図書館の中を歩いてくれませんか」(「夏めく日」p.213)

「手」を繋ぐ、「手」を握る。「腕」を掴んだり、振りはらったり。はたまた相手の「爪」をじっと見つめてみたり。このようにして、この作品の登場人物たちは、「手」を介在してコミュニケーションをはかるだろう。物語の展開に、「手」の交流が大きく働いていると言ってよい。各章の物語は、「手」を巡る物語なのだと思う。
そのことは、引用した「夏めく日」という短篇が一番よく現わしていた。「手」を通して相手を知ったり、「手」を握ることで何かを守ろうとする。「手」という繊細な感覚器官を通じて、作者は「恋愛」というものを語るのだ。

一千一秒の日々

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