講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見16』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見16 「私」という迷宮』講談社文芸文庫、2003年11月
第16巻のテーマは、ずばり「私」。「私」って何?というテーマは、文学以外の分野でも盛んに取り上げられるし、私もずっと追いかけているテーマなので、この巻は非常に興味深いものだった。けっこう面白い作品も多かったような気がする。

  • 梅崎春生「鏡」…○、他人を唆して自分の中の「悪」を実行させる。
  • 遠藤周作「イヤな奴」…○、これも「ハンセン病文学」と言える。肉体の苦痛が耐えられず、自分自身を裏切る男が主人公。「イヤな奴」とは、この男自身に他ならない。
  • 高橋たか子「骨の城」…○、ローラーで身体をつぶされて、眼だけの存在となる。
  • 吉田健一「一人旅」…△、難解な作品。
  • 島尾敏雄「夢屑」…○、漱石の「夢十夜」を思わせる作品。
  • 安部公房「ユープケッチャ」…○、奇妙な生き物「ユープケッチャ」。自分の糞を食べ続ける生き物のことだ。
  • 中里恒子「家の中」…◎、一人暮らし(あるいはひきこもり?)の美学。「家」=「私」であり、「家」を考古学的に発掘することは「私」を発掘することになる。
  • 小川国夫「天の本国」…△、まあまあ。
  • 三田誠広「鹿の王」…△、イマイチ。
  • 小林恭二「磔」…◎、これは1993年の作品なので、文中では「パソコン通信」が出てくるけど、これをインターネットに置き換え、また「情報」を「データベース」と読み替えれば、現在でも充分に読むに耐える、いや今こそ読むべき内容の作品かも。「情報」と「私」というテーマはすでに書かれていたのだよ。
  • 森瑶子「死者の声」…△、イマイチかな。