講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見13』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見13 男と女――結婚・エロス』講談社文芸文庫、2003年8月
12巻と同様に、第13巻も副題に「男と女」と付けている。しかし、13巻のほうは、セクシュアリティのテーマを強く出ている作品を多く収録している。全体を通じて、特に「女」のセクシュアリティのテーマが印象に残る。
坂口安吾「アンゴウ」…◎◎、これは素晴らしい。傑作中の傑作。安吾の「アンゴウ」、なんて洒落たタイトルをつけているけれど、実はこの「アンゴウ」が思いも寄らぬ結果をもたらす。それこそデリダの郵便のテーマじゃないかと、眩暈がした。
伊藤整「ある女の死」…○、ルージュという細部を活かした作品。
円地文子「耳瓔珞」…○、じっくりと読ませる。珠玉の一遍だと思う。
北原武夫「魔に憑かれて」…△、平凡な作品。
永井龍男「冬の日」…△、あんまり面白くない。
曾野綾子「只見川」…○、「戦争」批判というのは、ちょっと安易な理由付けか。
野口冨士男「なぎの葉考」…○、今ならエロ親父の小説と批判されてしまうのか?しかし、「親不孝もできないで小説が書けるかという言葉もうかんだ。それが不徹底だから、自分は駄目なのだと思った(p.185)」という言葉なんて、懐かしい感じがする。これこそ日本の近代文学なのでは。
三枝和子「野守」…△、フェミニズムっぽい言葉が出てきて、うんざり。
八木義徳「青い儀式」…○、悪くはないけど、ちょっと気持が悪いというか不気味な男が出てくる。
佐藤洋二郎「五十猛」…△、神話と重ねることの意味は何か?