講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見10』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見10 表現の冒険』講談社文芸文庫、2002年3月
第1期の第10巻が図書館にあったので、さっそく借りて読んでみた。この巻のテーマは、「表現」。他の巻と異なり、作品の内容、テーマに注目するのではなく、作品の表現方法に注目した。全体として、反リアリズムの作品たち、ということになるだろうか。どのように作家が、新しい表現方法を生み出してきたのかを垣間見ることになる。実験的な試みをした作品は、たいがい難解なものが多く、この巻はけっこう読むのに苦労した。一文一文、じっくりと付き合いながら読み進まないといけない。それゆえ、いっそう「読み方」に意識が向く。いかなる読みが可能なのか、考えなくてはならないだろう。書き手と同様読み手も、試行錯誤するわけなのだ。

  • 内田百輭「ゆうべの雲」…○、すーっと異空間に入り込んでいく文章の巧みさに感心する。
  • 石川淳「アルプスの少女」…○、これは有名な「アルプスの少女 ハイジ」のパロディ。クララが中心になっている。
  • 稲垣足穂「澄江堂河童談義」…△、芥川龍之介訪問記が、いつしか「お尻」に関する蘊蓄話へと変貌してしまう。こういう蘊蓄話が面白いと感じるか、つまらないと感じるかによって足穂の評価は分かれるのではないか。私は足穂の蘊蓄に耐えられないので…×。
  • 小島信夫「馬」…○、小島信夫らしい「男」が登場している。妻への不信が、自身の主体性を脅かす。馬にすら軽蔑される男だ。
  • 安部公房「棒」…○、突然「棒」になってしまう父親。
  • 藤枝静男「一家団欒」…○、死者となった家族が集合して団欒する。
  • 半村良「箪笥」…○、怖い。箪笥に乗れと迫られる、と書いても何が怖いのか分からないと思うが、方言で語られた文章を読んでいくと、ゾッとする物語になる。
  • 筒井康隆「遠い座敷」…△、どこまで「座敷」が続いていて、これも怖いと言えば怖い話。文章に読点が極端に少ないのが特徴。
  • 澁澤龍彦ダイダロス」…△、あまり面白くなかった。
  • 高橋源一郎連続テレビ小説ドラえもん」…○、石川淳は「ハイジ」を利用したが、その時はまだ「ハイジ」の物語が辛うじて残されていたと思う。しかし、高橋源一郎になると「ドラえもん」と書いてあっても、それが元の「ドラえもん」と何らかの繋がりがあるのだろうか。これは、宮澤賢治とミヤザワケンジは何の関係もない、ということと同じだ。
  • 笙野頼子「虚空人魚」…○、SF風の小説。
  • 吉田知子「お供え」…△、これも最後まで読むと不気味さを感じる。いつのまにか、自分が何者であるか分からなくなり、終いにはなんだか分からない存在へと変貌してしまっている。

戦後短篇小説再発見10 表現の冒険 (講談社文芸文庫)

戦後短篇小説再発見10 表現の冒険 (講談社文芸文庫)