講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見14』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見14 自然と人間』講談社文芸文庫、2003年9月
第14巻は、「自然」がテーマ。「自然」というテーマは、近代文学のみならず、どの時代の文学において見られるテーマだけに奥が深い。私などには、あまりにも巨大なテーマで、とても扱いきれないなと思う。最近は、「自然」という研究テーマは「環境」というテーマとなって、再び注目されているという。古いけれど新しい、それが「自然」だ。

  • 火野葦平「鯉」…○、鯉を手づかみする男とそれを見世物として利用する男。どちらが主でどちらが従なのか。
  • 近藤啓太郎「赤いパンツ」…△、赤いパンツをはいて船に乗ると、なぜか大漁になる。
  • 井上靖「道」…◎、この巻のなかで一番良い小説。
  • 上林暁四万十川幻想」…○、故郷にはさまざまな記憶がある。
  • 竹西寛子「鶴」…○、まあまあ。
  • 尾崎一雄「閑な老人」…○、虫を見つめる視線におどろく。(だけど虫が苦手なのでちょっと…×)
  • 丸山健二「チャボと湖」…○、近所でチャボを飼う女性をめぐる一騒動。
  • 阪田寛夫「菜の花さくら」…△、だらだらと過去を語る文章は嫌い。だらだらと思いつくままに自分語りをするのは、日本の小説の欠点だと思う。
  • 加藤幸子「主人公のいない場所」…○、まあまあかな。
  • 多和田葉子「ゴットハルト鉄道」…◎、トンネルを通過することが、食物を食べることと繋がる。「自動車なんてみんなシーツにくるんでバルト海に沈めてしまえばいいんですよね、と言ってみると、ベルクさんはわたしの顔をじっと見たが、笑わなかった。(p.216)」という文章に爆笑。