マーティン・スコセッシ『アビエイター』

◆『アビエイター』監督:マーティン・スコセッシ/2004年/アメリカ/169分
マーティン・スコセッシがヒューズを描くというので、期待して見に行く。しかし、あんまり面白い映画ではなかったのが残念。
映画監督ハワード・ヒューズが、大富豪で、そのお金で飛行機で映画を作ったということを知ってはいたが、どんな人物であったのかはこの映画ではじめて知った。この映画では、特にヒューズの「病」の面を強調していたように感じた。映画人ヒューズではなく、「狂気」の大富豪ヒューズの物語なのだ。
この「狂気」あるいは「病」の原因として提示されるのは、少年時代の母親との一つのエピソードである。少年時代の出来事が、トラウマとなって、その後のヒューズの人生を大きな影響を与えている、とこの物語は語っているのだろう。少年時代に受けたトラウマが、その後の人生に影響するというパターンは、レイ・チャールズの人生を綴った『レイ』と全く同じパターンなのである。
一時代を築いた著名人の伝記的物語が、ともに少年時代のトラウマとの闘い(いわば自己の闘い)、そしてその克服という物語を採用している。ヒューズにせよ、レイにせよ、ともにある意味ではその分野での「天才」と言える人物だが、彼らの天才性は彼ら自身のトラウマによって生れたというのであろうか。トラウマは、彼らを苦しめた「病」を生んだ一方で、彼らに天賦の才能をも与えた。つまり、天才と狂気は紙一重ということになる。
そのヒューズをディカプリオが演じているのだけど、ヒューズが年を取るにつれて神経症が悪化して、部屋に閉じこもるようになる。その変化を、顔、とくに眉間のしわで現そうとしている。映画の後半になると、ディカプリオの眉間は常にしわが寄って、険しい表情ばかりになるし、眉間だけじゃなくて、額にまでしわが現れて、そうとう顔の筋肉を使っているのではないかとハラハラしてディカプリオの顔を見てしまった。これは、ほんとに辛そうだった。
それにしても、ディカプリオという俳優は、私の印象では童顔なので、年を取った人物の役を演じる時は、かなり不利だなと思う。年相応の貫禄が出てこないのだ。何歳になっても「若造」という雰囲気が漂っている。ヒゲを生やしても、やっぱり「若造」にしか見えないのが残念といえば残念。