阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』

阿部和重インディヴィジュアル・プロジェクション新潮文庫、2000年7月
この小説は非常に面白い。いったい「オヌマ」って何者なんだ?。その謎が解きたくなる。それにしても、まったくどの言葉を信じたらよいのか分からない。誰が正気の人物で、誰が狂気に陥っているのか。謎だらけの物語。
物語の冒頭に、「戦いは最後の五分間である」という「ナポレオン・ボナパルト」の言葉がエピグラフとして置いてある。最後まで読んで、もう一度このエピグラフを読むと、「ああ、そういうことか!」とニヤリとしてしまう。物語のラストには、阿部和重らしいどんでん返しがあるのだ。そして、そのあざやかなどんでん返しは、たった一つの文字すなわち「M」という文字によって引き起こされているのだから、これまた衝撃的な結末なのである。「M」という一文字で、物語全体を相対化してしまう。この阿部和重のテクニックには驚かざるを得ない。

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)