知的な刺激は受けなかったが

◆ピエール・ブリュネル『変身の神話』(門田眞知子訳)人文書院変身の神話
著者は、フランスの比較文学研究の第一人者と言って良い人物。比較文学の研究らしく、この本でもギリシャ神話から哲学、ヨーロッパの文学などから「変身」の主題に関わる作品をたくさん持ち出してきて論じている。多くの作品からとりわけ著者が力を入れて論じているのが、ルイス・キャロルの「アリス」とカフカの『変身』である。
「アリス」が成長の物語だとすると、『変身』は退行の物語となるだろうか。成長と退行、それは生と死の対立とも言えるだろう。このように「変身」のテーマには矛盾し合う力が同居している。ブリュネルは「反対同士の結合」つまり「互いに拮抗する力のシステム」と結論づけた。
本書の内容を短くまとめると、こうなるのだが、実はそれほど面白い内容の本ではない。正直、途中で退屈してしまった。
「変身」というテーマの刺激性にも拘わらず、論のほうはさほど盛り上がらない。著者が真面目すぎるのか、論がストレートで、遊びというか余裕がないのだ。だから、大教室で年配の教授が、マイクに向かってぼそぼそっと講義をしていて、それを学生は、退屈そうに聴いているといった印象を受けてしまう。せっかく「変身」という面白いテーマなのだから、もう少し興味深いデータを、たとえそれが論の中心から外れていても出してくれれば良かったのに。そうすれば、研究者以外の読者でも楽しく読めるものとなったのではないだろうか。