読みたい本、見つけた!

◆『東大教師が新入生にすすめる本』文春新書
柴崎友香きょうのできごと河出文庫
『東大教師が…』はやはり専門家が薦める本ということだけあって、安心して薦められた本を読んでみたくなる。今まで知らなかった本などもあって、さっそく本屋に注文してみたり。暇があるとき、ちょくちょく読んで覚えておこう。
それにしても、高橋和巳がけっこう人気があったというのが興味深い。今の教官たちが、ちょうどその世代(全共闘)なんだろうなあ。こんど何かたとえば『悲の器』とか読んでみようかな。それから、思想分野ではサイードオリエンタリズム』とアンダーソン『想像の共同体』あたりが、複数の人によって薦められていた。これらの本の衝撃力というものを感じる。もう一度読み直さないと。
きょうのできごと』、第一印象通りの小説だった。小説全体の雰囲気が抜群に良い。小説の雰囲気を形成しているのが、登場人物たちの会話だ。京都、大阪が舞台なので、みんな関西弁で話す。これが良い。私は、出身が関東の田舎のほうで、大学から関西に住み始めた。なので、どうして関西弁がうまくできないので、ネイティヴの関西弁に憧れているけれど、関西弁の会話というのは標準語とは異なる、人と人との距離あるいは親密感を演出するみたいだ。『きょうのできごと』の登場人物たちの親密感は、おそらく標準語では出せない。きっと、標準語と関西弁ではちがう距離感が出てしまうと思う。小説中の「会話」の持つ力について考えさせる作品だと思う。
「会話」が気になると、やはりこれが映画を見ておいた方が良いのだろう。実際、これを生身の役者が演じるとどうなるのか。小説と同じ雰囲気が出せるのか?また違った味わいが出るのか、気になるところだ。
この小説は「中沢」という登場人物が、いつか映画を撮ることを夢見ている。作品の映画化という関係ではなく、この作品自体が「映画」の影響というか一つの主題というか、そんなものを持っている。それは小説の冒頭が、「光で、目が覚めた」という一文で始まる通り、この小説における「光」のモチーフは重要である。たとえば、それは「幸福」や「希望」のようなあるいは「未来」などを象徴しているかもしれない。そして、「光」はまた映画とも結びつけることもできるだろう。小説の舞台が深夜から朝方にかけての時間であることも注意が必要だろう。(「光」には「闇」がまた対になるからだ。それから、動物園の場面は昼間だけど、天気が悪く、どこか暗さをもった場面である。)
映画との関連をもう一つ挙げておく。この文庫本には、この小説の一番最後の「きょうのできごとのつづきのできごと」という章がある。(単行本がどうなっているのか知らないが。)この章はA面とB面があって、A面はそれまでの物語のエピローグのようなのだけど、B面は小説と言ったらよいのか作者のエッセイと呼べばいいのか分からない。B面は、この小説の作者(=柴崎)がこの小説の映画の深夜の撮影現場を訪れた時のことが語られる。まあ、常識的に読めば、作者の映画撮影の見学記で小説ではないのだろう。で、このできごとをもとに、A面を書いたのだろうと想像できる。(A面とB面には同じような場面があるので。)でも、読んでいると、これもまた「きょうのできごと」の一つの物語であるような印象を受けてしまう。こうした虚実の入り交じりというのもまた面白い。他の小説も読んでみたくなる。