NHK放送文化研究所世論調査部編『日本人の好きなもの データで読む嗜好と価値観』

NHK放送文化研究所世論調査部編『日本人の好きなもの データで読む嗜好と価値観』日本放送出版協会、2008年1月
現代の日本人は何が好きなのか。好きなものから日本人の特徴を見ようという面白い試み。食べ物から趣味、好きな色や数字など様々なジャンルの「好きなもの」が調査されている。
調査結果をまとめた本なので、データの提示が主で、なぜかという分析はくわしくなされていないのだが、結びの中で今回の調査結果から見えてくる日本人の特徴として「融通無碍」と「付和雷同」という二つが指摘されている。この指摘は目新しいものではないが、今の日本人の「こだわり」の無さという面が見られ、考えさせられる。
それから、次の指摘も非常に重要だ。

 「多様化」という言葉は、政府の白書や報告書の中で、「雇用の多様化」とか「生徒の多様化」といった言い方もされています。これらは「正社員、契約社員、パート、アルバイトなどの雇用形態の違いが大きくなる」といったり、「学習意欲、学力、家庭環境などの違いが大きくなる」といったりはせず、「多様化」という言葉を使うことでいわばオブラートに包んでいる側面があるので注意が必要です。多様化と表現されているものの中には格差の広がりと考えられるものが含まれています。
 また「価値観の多様化」は、当初は主に消費の場面、つまり多くの人が同じものを買わなくなったという状況に関連してよく使われたと記憶しています。「日本人の意識調査」で価値観の画一化が進んでいるというデータをみたときには、基本的なものの考え方としての価値観と日常の消費財の好みとしての価値観とは別もので、基本的な価値観は画一化していても、消費財の好みは多様化することはあり得ると考えました。例えていうならば「バックはグッチがエルメスかの違いにこだわるという意味で多様化しているが、ブランド志向ととらえるならば画一化が進んでいる」と受け止めることができます。

「多様性」という言葉の落とし穴。ポストモダンというのも、結局は、同一価値観の中での小さな差異の争いだったのだ。その小さな差異の闘争の中で、格差が見逃されてきたのではないか。90年代以降、見逃されてきた「格差」が浮かび上がり注目されてきたのも納得できる。