大東和重『文学の誕生 藤村から漱石へ』

◆大東和重『文学の誕生 藤村から漱石へ』講談社、2006年12月
本書は日露戦争後の文壇が分析される。
論じられる年代は、明治39年から41年にかけて。期間は短いが、この時期は近代文学にとって極めて重要だ。なぜならこの時期に、<文学>概念が大きく変化したからである。そして、この時期に確立した文学の評価軸は、おそらく現在までも強固に残っているであろう。この時期に、文学の世界に一体何が起きたのか。著者は、当時の批評を丹念に読み解きながら、このダイナミックな変化を記述する。
取り上げられる作家の名前は、島崎藤村国木田独歩田山花袋小栗風葉夏目漱石
本書では、彼らの作品そのものが分析されるのではなく、彼らを巡る批評が分析の対象となる。そこから見えてくるのは、<自己表現>という文学の善し悪しを判断する基準だ。要するに、作品の価値はとりもなおさず「作者」にあるとする文学観。したがって、この時期を境に、真面目な「作家」(作家その人が実際に真面目だろうと、作品の読み取りから得られる作家像にせよ)の評価が、がらっと変わるし、不真面目な「作家」は評価が下がり、やがては文学史からも消えていく。このあたりの作家たちの栄枯盛衰の物語が非常に面白い。

文学の誕生―藤村から漱石へ (講談社選書メチエ)

文学の誕生―藤村から漱石へ (講談社選書メチエ)