田中貴子『検定絶対不合格教科書 古文』

田中貴子『検定絶対不合格教科書 古文』朝日新聞社、2007年3月
国語の教科書に対する批判は、石原千秋をはじめいくつかあるが、本書は古典の分野に的を絞り、古典文学教育の問題点を指摘しつつ、独自の教材を提示する。
教材のセレクションは、なかなか興味深くて、たしかに検定教科書にはならないだろうなと思いつつも、本書は授業で使ってみたいと思わせる。
第2部では、古典の教科書に載らない教材をセレクトしているが、一番最初に持ってきたのはなんと正岡子規の『仰臥漫録』。これは近代文学ではと思うのだが、しかし、この作品はまだ歴史的仮名遣いで書かれているのだ。だから、古典にまったく触れたことがない人が古典の勉強をはじめるのは、これぐらいがちょうどいいという。これは、まったくその通りだと思う。今や、明治の擬古文などは現代語訳しないと読めなくなってきているし、明治の文章も古典の教材として大いに利用してもよいのかもしれない。
本書の特徴としては、文学研究の成果を大いに取り入れて、古典を読んでいくところだ。ちょっと驚いたのだが、学校教育では、どうも文学研究のような読み方は、どうもだめらしい。古典に関しては、学習指導要領で「親しみやすく基本的なもの」を教材に選ぶことと、「詳細な読み取りの指導に偏らない」ように配慮するようにと記されているのだ。その点で、本書は指導要領から大きく逸脱してしまう。最新の研究成果をどんどん取り入れて、従来の読みに疑問符を投げかけるほうが教育的には非常に役立つと思う。その点で、本書の試みは大賛成である。古典に限らず、現代文でもそうなのだが、国語教育を道徳教育から解放させる必要があるのだ。

検定絶対不合格教科書古文 (朝日選書 817)

検定絶対不合格教科書古文 (朝日選書 817)