木下恵介『野菊の如き君なりき』

◆『野菊の如き君なりき』監督:木下恵介/1955年/日本/92分
シネ・ヌーヴォで、きょうから「松竹110周年祭」が始まった。初日にさっそく見に行く。
原作は伊藤左千夫の『野菊の墓』。中学入学前にした15歳の少年政夫といとこで2歳年上の民子の恋の物語。政夫と民子は、姉弟同然のように育ち、非常に仲が良い。しかし、民子が年上であることから、周囲は二人が結婚することを許さない。特に、政夫の兄嫁が二人の仲を猛烈に反対し、ことある事に民子をいじめる。その都度、二人をかばい続けてきた政夫の母であったが、とうとう兄嫁の説得に負け、民子に政夫とは結婚できなことを告げる。その後、政夫は中学に入って家を出る。民子は、別の人と結婚するが、病気となって実家に戻されてしまう。そして、その病のために亡くなってしまう。民子は死ぬときまで、ずっと政夫のことを思い続けていたのだった。――
映画は、この物語を回想形式で描く。70を過ぎた政夫が、生まれ育った家に戻るシーンから始まる。過去の回想シーンを前後で挿むように、政夫が民子の墓を訪れるシーンがある。印象的だったのは、感傷的な物語のわりには、クロースアップではなくロングショットが効果的に使われていることだ。ロングショットによって、人智を越えた「運命」のなかに、政夫たち人間が生きていることを感じさせる。また、通俗的なメロドラマにありがちな感動のおしつけがましさがないのもよい。