堤幸彦『明日の記憶』

◆『明日の記憶』監督:堤幸彦/2006年/日本/122分
堤幸彦監督の作品は初めて見たが、ホラー映画が得意な監督なのだろうと感じた。アルツハイマー病の主人公が、記憶を失い、アイデンティティが不安定になるさまを描くとき、まるでホラー映画のような映像になるのだ。たとえば、会社に辞表を提出した直後の場面など、主人公が異世界に侵入してしまったようである。病の夫を支える妻の物語というヒューマンタッチの物語と、ホラー映画のような演出の組み合わせが面白いが、一歩間違えば、病をホラー映画の怪物のように描いていると受けとめられかねない危うさがある。また、最後に奥多摩の山中に夫婦が包まれて、なんだか問題をうやむやのまま終わらせてしまうのは、いかにも日本の自然主義文学の手法のようで、それでいいのかという疑問は残る。自然(=女性)に包み込まれ癒される男性という構図では、何も解決しないだろう。