大杉栄『大杉栄自叙伝』

大杉栄大杉栄自叙伝』中公文庫、2001年8月
アナキスト大杉栄の自叙伝。子どものころの話から、初恋の話もあり、平民社の人たちとの関係が始まるところまでと、それから神近市子に刺される有名な「葉山事件」についても書いている。「葉山事件」というと、やはり吉田喜重の『エロス+虐殺』だ。この映画を見たとき以来、大杉栄が気になる存在であった。
大杉は、子どもころから我が強い。また乱暴なところもあり、いたずらや喧嘩をして、しょっちゅう母親に叱られていた大杉栄大杉栄の母親もちょっと変わっている。母親は、「ほんとにこの子は馬鹿なんですよ。箒を持ってこいと言うと、いつも打たれることがわかっていながら、ちゃんと持ってくるんですもの。そして早く逃げればいいのに、その箒をふりあげてもぼんやりして突っ立っているんでしょう。なお癪にさわって打たないわけにはゆかないじゃありませんか」(p.107)などと言っていた。とはいっても、母との関係は特に悪かったわけではない。
軍人になるべく、幼年学校に入るも、憂鬱に襲われ、ある時喧嘩で大怪我し、幼年学校を退学することになる。その後、文学に興味を持つが、「文学は困る」と言う父親に妥協して、語学を勉強するということで、東京の中学校を受験する。このときのエピソードも面白い。
この時、大杉は「東京中学校」と「順天中学校」を受けることにしたが、この二つの入試は同時に行われた。そこで、学力に自信のあった大杉は東京中学校を受け、順天中学校には「換玉」を使った。ところが、東京中学校の試験に、大杉の苦手とする問題があり不合格となってしまう。一方、「換玉」はうまくいって順天中学校に合格したという。
いろいろ面白いエピソードが書かれてあって、けっこう面白い自伝だと思う。明治のころの学校の雰囲気もよく分かる。

大杉栄自叙伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)

大杉栄自叙伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)