星野智幸『ファンタジスタ』

星野智幸ファンタジスタ集英社、2003年3月
『文藝』2006年春号で星野智幸が特集されていた。星野作品を全部読もうと考えていたところだったので、この特集は非常にありがたい。
この特集には、星野自身による著作解題があり、興味深い内容となっている。『ファンタジスタ』には、「砂の惑星」と「ファンタジスタ」と「ハイウェイ・スター」の三つの中・短篇作品が収められている。著者解題によると、まず「砂の惑星」は担当編集者の「新聞記者時代のことを書くのはどうですか」という提案に触発されて書かれたとある。そして、二つの実在する出来事から着想を得たという。一つは、記録映像作家の岡村淳の作品「郷愁は夢のなかで」であり、もう一つは1999年に起きたアメリカのコロンバイン高校の事件とのことである。
物語は、いかにしてフィクションが生まれるのかを、主人公の記者の振る舞いを通じて描こうとしているのかなと思う。最後に主人公が書く新聞記事は、もうすでに記事ではなく明らかに「小説」となってしまう。事実に語らせろという新聞記事の手法には満足できず、「小説」の世界へと逸脱していく主人公。「書くこと」は、『最後の吐息』から続いている問題だと思うが、星野は『文藝』の著作解題のなかで、主人公の記者が「フィクション化して記事にした瞬間、新たな暴力が発生する」(p.17)と述べていることが気にかかる。
ファンタジスタ」は、「政治的主題を初めて前面に出した作品」と星野は述べている。近未来の社会、「フットボール」と「サッカー」の対立を通して、現代社会・政治批判を行なっている。
三島由紀夫の熱狂的なファンとしては、次のような三島事件(あるいは『憂国』)のパロディが気になってしまう。

 で、ついに刀が筋肉を切り裂いてモリモリと腹の奥までめり込むと、タマモトが口から血を吐いて、ヤマトダマシイここにありぃ、と呻いて、そうしたらその呻くときの腹の力で、まだ千切れきれていないはらわたが元気よくぷりんと飛び出てきてしまった。それがなんと、白黒模様のサッカーボールだったんだとさ。ヤマト玉とはサッカーボールだったってわけさ。(p.109)

『ロンリー・ハーツ・キラー』で、星野は三島由紀夫と対峙することになるという。この作品もぜひ読まなければならない。
最後の「ハイウェイ・スター」であるが、星野は「書いていてものすごく楽しかった。自分で読み返しても好きな作品」(p.17)と述べている。「主題よりも、そのスピード感ある語り、アナーキーな屁理屈、それに子どもじみた幻想的現実をたのしんでほしい作品」とのことだが、私にはこの短篇作品が合わなかった。

ファンタジスタ

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