北野武『TAKESHIS'』

◆『TAKESHIS'』監督:北野武/2005年/日本/105分
マスコミの報道では、内容が複雑すぎて何が何だか分からない映画だと評判があまり芳しくなかったので、それなりに覚悟して見に行ったのだが、かなり面白い映画だった。たしかに、物語は複雑に入り組んでいて、あらすじを書くのも困るものであり、私も結局これは大物俳優たけしの夢なのか、コンビニ店員の北野の夢なのか、途中からまったく分からなくなってしまった。とは言うものの、映像はいくつかの主題をひたすら反復しているので、ある主題を追いかけながら見ていくと、いろんな変化が見て取れて非常に運動性のある映画に仕上がっていた。北野武は、映画にタップダンスをよく取り入れるのだけど、ダンスのような運動に惹かれていることが、この映画を見るとよく分かる。
この映画の大きなモチーフに「死」のオブセッションがある。物語全体は、この「死」のオブセッションで統御されているように思える。したがって、映像は無秩序に編集されているように見えるようだが、いくつかの主題がかなり秩序だって組み合わさっているように思える。私がこの映画にとまどうことがなかったのも、なんとなく秩序を感じていたからだと思う。
ともかくこの映画は、「死」のオブセッションの形象化といえるのではないだろうか。したがって、この映画は物語というより、映像による散文詩といったほうが良いのかもしれない。映画の冒頭で示されるように「横たわる」という主題がまずはじめにあり、「横たわる」ことは「睡眠」に繋がるし、もちろん「睡眠」は最終的には「死」と繋がっていく。
こう書いてしまうと、なんだか自分の想像力がひどく貧困なように思えてきた。映画を見ているときは、もっと映像から触発されるものがあり、久々に興奮しながら映画を見ることが出来たのに。いったい、私は何を見ていたのか。
ひとつ印象に残った場面がある。強盗をしたあと、夜中に線路上でたけしがタップを踊った後、野原でやくざと銃撃戦があるのだが、この銃撃戦がけっこうよかった。銃の発砲の瞬間の光が、星となり星座となる場面のことである。銃撃戦が、まるで光のダンスのように描かれており、銃撃シーンもダンスのように撮れるのかと非常に興味深い場面だった。