吉村公三郎『夜の河』

◆『夜の河』監督:吉村公三郎/1956年/大映/104分/カラー
吉村公三郎のはじめてのカラー作品。脚本は、新藤よりも安心できる脚本家である田中澄江。出演は山本富士子。この映画によって、山本富士子は一躍スターとなったという。
この映画は、宮川一夫のカメラが冴えに冴え渡っている。画面のなかは、非常に色彩が豊かである。特に、赤色、青色、緑色などを巧みに配置していた。
京都で染物屋を営む山本富士子が、大学の先生である上原謙と恋愛に陥る。だが、上原には病気の妻がいることを知り、山本が動揺する。妻の死をまるで望んでいるかのような二人の関係に、罪の意識を覚えた山本は、結局上原と別れることを決意し、染物という仕事にいっそう熱心に取り組むことになる。物語はこんなところ。
東京に向う列車のなかで、山本富士子上原謙が出会う場面がある。時間は夜で外は暗い。この時、走る列車の窓に山本富士子の横顔が反映するシーンの美しさは感動的だ。
この映画の美しさは、ここだけに止まらない。宮川一夫の腕が冴えるのは、山本と上原がはじめて結ばれる一夜の場面である。二人で散歩をしていたときに雨が降り、山本の友人の旅館で一休みすることになる。二人は部屋に通され、友人が部屋を出て行くとき、蛾が入ってきたので部屋の電気を消していく。この時、外から真っ赤な光が二人のいる部屋全体を照らす。もちろん山本も上原も真っ赤な光に照らされる。この赤い光の艶めかしさ!。背中がゾクゾクっとするほどだ。「赤のエロチシズム」と呼びたいほどの官能的な映像なのだ。これを撮れるのは、やはり『雨月物語』を撮った宮川一夫だけだろう。この場面を見ることができただけでもう満足だ。ほかに言うことはない。