いかに評価するのか
◆C・ノリス『ポール・ド・マン』法政大学出版局
もちろん、ド・マンの思想を論じることが中心なのだけど、それ以外にも現代思想を論じた本としても読めるおいしい本。とはいえ、かなり読むのがハードな本ではあった。
訳者のあとがきで、この本の中身がコンパクトに解説されていたので、それを利用して以下に内容をまとめてみる*1。
本書におけるノリスの主要な論点は、ド・マンの中心思想は「一貫した「美学イデオロギー」批判」であるということ。
では、その「美学イデオロギー」とは何だろう?それは、「美的なものは感覚経験と認知経験を調和させることができるという、西洋思想の主流」にある考え方のことである。
とりわけ、ド・マンの批判の対象となるのは以下のようなことだ。
言語、とりわけメタファーとシンボルの言語が、事物や観念と一体となることによって直感と存在の溝を超えるというしくみを受け入れ、文学や詩を特権化し、天才をたたえ、その有機的想像力を重んじるという、近代の、特にロマン主義のイデオロギーであり、その批評においても主流をなす論理(p.348)
こうした論理は、ド・マンにとって「本来の矛盾」「二律背反」に目を背ける「欺瞞」でしかない、ということだそうだ。こうした「欺瞞」を暴くために、ド・マンが用いた方法が「精読」と言われるものだった、ということになる。
本書は、6章でほぼド・マンの思想を論じきっているのだけど、最後の7章が付け加えられる。それは、例のド・マンがかつて、親ナチ的な文章を書いていたという事実が明らかにされたことがあったためである。この事実が明るみになって、ド・マンへの批判が湧き上がり、この事実をド・マンの思想の中にどう位置づけるのか、ということを付け加えざるを得なかった。
しかし、何て言うか、こういう問題が生じると批評するのが難しくなるものだなあと思う。要するに、親ナチ的な活動が過去にあったといって、その後の業績は全て価値がないものとして葬ってしまうのか、それともそんな過去には目もくれないで、思想を評価し続けるのか…などなど簡単に決着のつけられない問題だ。
*1:自分で要約・解説が出来るようにならないといけないなあ…。