「言うは易く行うは難し」

◆大塚和夫『イスラーム主義とは何か』岩波新書
散々文句を言いながら、全部を読み通してみると、後半はそれなりに面白い本ではあった。こういうことがあるから、やはり本は最後まで読み通すほうが良いのだろうなあ。いや、ちょっとだけ読んで、その本の価値を決めつけてしまうのが良くないのか。
それにしても、一言で「近代」と言っても、その意味するところは多く、「近代」を論じることの難しさを感じる。一般に、「近代」と言うと、それは「西洋」と呼ばれるあたり、もっと限定するとヨーロッパあたりの価値観であるだろう。その価値観でもって、イスラムの「近代」(と見えるもの)を評価することは慎重を要するだろうし、だからといって逆にイスラムは西洋とは違う、その違う部分が「イスラム」の本質なのだ、という短絡的な「本質主義」に陥ってしまうと、それこそ日本の「近代の超克」と同じ穴の狢となってしまう。ヨーロッパと言っても、一枚岩ではないように、イスラム世界も一枚岩ではない。それぞれの「近代」というものがあって、固定化した理論でもって、強引に意味づけていくことはできない。
要するに、大切なことは、一つの理論や概念に拘らないということだ。もし、ある理論なり概念が当てはまらない現実に出会ったとき、その都度理論を変更なり修正して、理論そのものを鍛え上げていく事が必要で、自分自身が変わることを受け入れることが大切になるのだろう、ということだ。
「言うは易く行うは難し」とはよく言ったもので、変化を恐れるなと言っても、なかなか積み上げてきた知識を崩して、また作りあげるということは実際は難しいと思う。異文化を論じることの難しさは、ここにある。私などは、かなり保守的な性格で、自分の築き上げた知識なり経験を出来れば守りつづけたい*1。おいそれと、異文化にあるいは他者と出会ったからといって、自分の中の理論を変えようと考えることができない。思考の柔軟さがないのだろうなあ。もっと、頭や心を柔らかくしないと…。

*1:こういうのを「流動性」に耐えられない、と言うのだろうか?