マイク・リー『ヴェラ・ドレイク』

◆『ヴェラ・ドレイク』監督:マイク・リー/イギリス・フランス・ニュージーランド/125分
ヴェラ・ドレイクは、家族を非常に大切にし、世話好きで、家政婦の仕事も真面目にこなしている平凡な主婦だった。ヴェラの家族は、夫も優しく、息子もしっかりした人物だし、娘は婚約をしたところで、何の問題もない幸せだった。だが、ヴェラには、ただ一つだけ誰にも言えないことがあった。密かに違法な堕胎を女性たちに行っていたのだ。その秘密は、皮肉にも、家族にとって幸せの絶頂である娘を祝福するパーティーの日に明らかになってしまう。――
物語の前半は、ヴェラとその家族の日常を淡々と描く。ヴェラの犯罪は、日常生活の一つとして、他の仕事と同じように描かれているのが特徴的。ヴェラは、困っている女性を助けるためであるという強い信念を持っていた。ヴェラは、ただ心優しい人物なのである。しかし、困っている人を助けたいという良心が、ヴェラを犯罪者にしてしまうのだ。
物語の後半は、逮捕されたヴェラと家族の葛藤が語られる。逮捕されたことに大きなショックを受けるヴェラと、違法な堕胎を行っていたことを知った家族の戸惑いや混乱と、カメラは冷静に捉えている。
裁判が終わり、実刑判決を受けたヴェラ。刑務所に入ったヴェラを写したあと、ヴェラのいない家族が写しだされる。そして、食卓に無言で過ごしているヴェラの家族の姿で映画は終わる。この静かなラストシーンは、前半の幸福だった食卓と対比され、ただやるせない印象を受ける。家族は今後、ヴェラをどう受け入れるのだろうか。ヴェラにもう一度笑顔が戻るのだろうか。