石原千秋『小説入門のための高校入試国語』

石原千秋『小説入門のための高校入試国語』日本放送出版協会、2002年4月
ちくま新書の「大学受験」用のほうは、すでに読んでいたけれど、こちらの「高校入試」向けは読んでいなかった。読んでみて、ちくま新書のほうと特に変わりはないので、読む必要は無かったかもしれない。でも、石原千秋の説明がとても分かりやすいので、読んでも損はしない。
ともかく、入試のための「読み方」をあえて示しているところが良い。入試では、「学校的物語」に沿った読み方をすれば良いというわけだ。小説は多様な読み方ができる、しかし「学校的物語」では特別な読み方、解釈がある。それは、小説の読みとして絶対なものではない。だから、入試問題ができなくても、小説が読めないということではない。
しかし、この本というか、石原千秋の一連の入試・受験本は、単なる参考書というわけではないのではと思う。私は、これらの本も日本文学の研究書と位置づけておきたい。つまり、これは文学の一つの「読み方」を研究した本であると。どういうことか。要するに、「学校的物語」の価値観、これを学校主義、あるいは受験主義と読み替えて私なりに言うと、石原氏は学校主義的な文学の読みを提示したということになる。
文学研究には、たとえばマルクス主義的読解とかフェミニズム的読解など、解釈にさまざまな方法が存在する。この学校主義的読解もそうした読みの方法論の一つであると私は考える。しかしながら、こうした方法論が、文学研究にどのような貢献を果たすのかは分からないが。ともかく、「学校」という一つの文化のなかで育まれてきた「読み方」が存在するのだということ、それは文学の読み方の方法の一つでしかないこと、この二つの点は文学の研究・教育にとって非常に重要であることは間違いない。というわけで、一連の入試関連本を、受験参考書ではなく、やはり文学研究の書として私は捉えておきたい。

小説入門のための高校入試国語 (NHKブックス)

小説入門のための高校入試国語 (NHKブックス)