講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見6』

講談社文芸文庫編『戦後短篇小説再発見6 変貌する都市』講談社文芸文庫、2001年11月
第6巻のテーマは「都市」。「都市」小説は、けっこう好きなので期待して読み始める。

  • 織田作之助「神経」…◎、戦争が終わり、混乱している都市のなかで、必死に生きていこうとする人々。それを見つめる作者の眼があたたかい。
  • 島尾敏雄「摩天楼」…△、あまり面白くない。
  • 梅崎春生「麺麭の話」…○、これも戦後の混乱期が舞台。飢餓がもたらす狂気。
  • 林芙美子「下町」…○、戦後の貧しい時代に、夫の帰還を待ちながら生活する「りよ」。ある男との出会い、そして束の間の交流が描かれる。
  • 福永武彦「飛ぶ男」…×、福永武彦は苦手だ。実験的な手法を無理に取り入れるのが好きではない。
  • 森茉莉「気違いマリア」…○(or◎)、すごい。この巻の解説は、富岡幸一郎が担当しているが、そのなかでこの小説に対し「笙野頼子の最近作『幽界森娘異聞』などを読むと、マリアの「狂」が、現代小説にヴィヴィッドに影響を与え続けていることがよく分かる」(p.299−300)と指摘している。この指摘はすごく納得。この小説を読んで、真っ先に頭に思い浮かんだのは笙野頼子だったから。森茉莉笙野頼子なのだ。いや逆か。笙野頼子森茉莉なんだな。
  • 阿部昭鵠沼西海岸」…△、感傷的。平凡な作品。「鵠沼」って、明治・大正あたりの文学者がしばしば赴くところではなかったか。
  • 三木卓「転居」…△、引っ越しする時に感じる、寂しいというか何というか、そんななんとも言えない気持を作品にしている。きっと、引っ越しを経験した人なら、「分かる、分かる」と思うに違いない。
  • 日野啓三「天窓のあるガレージ」…△、幻想的な作品は苦手。
  • 清岡卓行「パリと大連」…△、この人、また「大連」だ。
  • 後藤明生「しんとく問答」…◎、折口信夫も小説にしている、いわゆる「身毒丸」もの。この伝説を追いかける作者の旅行記というか顛末記というべきか。「俊徳丸鏡塚」を目指して出発するのだけど、地図を見てもなかなか辿り着けない。伝説の謎が、解くことができないように。この短篇自体が、迷宮入りしてしまうオチなどは、後藤明生ならではと言えるのではないか。
  • 村上春樹レキシントンの幽霊」…○、まあまあ面白い。