G.C.スピヴァク『ある学問の死』

◆G・C・スピヴァク(上村忠男・鈴木聡訳)『ある学問の死 惑星思考の比較文学へ』みすず書房、2004年5月
アマゾンの読者レビューを見ていたら、この本に対する評価が低かった。「そんなにひどい本なのだろうか」と心配しながら読んだ。
つまらない本だとは思わないが、内容はたしかに取り立てて鋭いものではなかった。「ある学問の死」とタイトルにしているのだから、比較文学の「死」を語ってくれるのかと期待していたのに「死」なんてちっとも語られていない。逆に何度も強調されるのは、こういうことだ。

 本書を通じて、わたしは一貫して、いささかユートピア的ともいえる論法で、比較文学と地域研究の力の結集を繰り返し訴えてきた。ついに時代がわたしたちにそうするように歩み寄ってきたようにみえるからである。(p.34)

比較文学で培われてきた「精読」の方法は、エリア・スタディ(地域研究)と連動し、大いに活用されなくてはならないと、比較文学を必死に擁護しようとしていたのが気に掛かる。私は、比較文学が専門だが、比較文学はとりあえず一度死なせてしまったほうが良いだろうと日頃から考えているので、スピヴァクのように素直に比較文学を擁護する気にはなれない。

ある学問の死 惑星的思考と新しい比較文学

ある学問の死 惑星的思考と新しい比較文学