中島らも『ますます明るい悩み相談』

中島らも『ますます明るい悩み相談』朝日文芸文庫、1996年8月
ストレス発散になるような本が読みたいと思って日本から持ってきた本だが、やっぱりこれは面白い。どうして、くすっと笑えるような面白い解答ができるのだろうなあ、なんて悩んでしまう。
本書のなかに、「幻想=夢をうちこわした後にこそ、我々は本当の夢をみつけることができるのです」(p.186)という言葉があるが、これはその通りだと思う。メタ的思考のおかげで、フィクションが約束事であること、そしてその約束事を暴露してフィクションをいかに壊していくのかということが、一部のアカデミズムにおける潮流だ。それに対し、再びフィクションの擁護という動きもあって、私もフィクションを擁護していきたい考えである。フィクションを壊すのは、それはそれで良いのかもしれないが、問題は壊した後はどうするのかということだろう。
「明るい悩み相談」というのは、世の中にある約束事を、約束事であるがゆえに批判したり否定したりするのではなく、約束事であることを知った上でそれを楽しむ術を示す。だから、「明るい」相談として楽しく読めるわけで、なんていうか「王様は裸だ」と指摘して王様を馬鹿にする人間より、裸の王様と一緒に楽しんでしまえるような人間のほうが、きっと人生は「明るい」のだろうなあと思ってみたりする。最近の学問の世界は、裸の王様と楽しめなくなっているような……果たしてどうなのだろう?