記号を読む

蓮實重彦『映画の神話学』ちくま学芸文庫
結局、本書は映像という記号を読む(映画だから観る)とはいかなることか、そしてどうすれば記号を読むことができるのか、その理論と実践が記された書であると言える。
映画における「自動車」の記号学、映画における「落下」を考察した二つの章が読みやすいのではないか。「自動車」に関しては、その「停止」ということに、ただならぬ事件を見出すこと。普通、自動車というと猛スピードで疾走する場面を思いだしてしまうが、そうではなく、「停止」するという主題に目を付け、「自動車」の映画の系譜を作り上げていくところは、読んでいてとても面白い。また「落下」という主題には、映画という制度の限界が露呈してしまうことを強調していたことは重要だ。
けっして、凡庸な「知」に絡め取られずに、記号を読むこと。それには、無知であることもまた重要なのだ。あえて無知として振る舞う。そして、ひたすらスクリーンに映し出される記号を見る。記号とはけっして秩序だったものではなく、様々な要素が共存している荒唐無稽なものなのだ。だけど、人はその荒唐無稽さに耐えられない。すぐに、たとえばやれエディプスコンプレックスだの、現代社会の反映だのといった「物語」に結びつけてしまうのではないか。それが、間違っているというわけではない。だけど、そうしたとき、記号の持つ「豊かさ」が見えなくなってしまうだろう。本書では、たとえば円環という主題が、思いがけない繋がりを見せることをヒッチコックの映画を分析を通して見事に語っているだろう。
やっぱり憧れてしまうのだ。こういう映画の語り方を身につけたいと思う。

映画の神話学 (ちくま学芸文庫)

映画の神話学 (ちくま学芸文庫)