黒澤明監督『虎の尾を踏む男たち』1952年東宝
牧野省三監督『豪傑児雷也1921年日活
10月25日から11月3日まで、「宝塚映画祭」が行われている。今年で第4回目だそうだ。今年は映画と歌舞伎が関連する映画が上映されている。四方田氏あたりがしばしば書いているけれど、日本の映画には歌舞伎が大きく貢献しており、そもそも現存する最古のフィルムは『紅葉狩』(今回の映画祭でも上映される)という歌舞伎を撮影したものである。
そんなわけで、映画と歌舞伎というテーマはかなり興味深いものである。今日見てきたのは、黒澤の戦後すぐに作られた映画(1945年に制作されている)『虎の尾を踏む男たち』だが、これはもちろん「勧進帳」が元ネタだ。テーマが封建的だ、ということで上映になったのが7年後になったという。どことなく危険な香りがする映画ではある。
というのも、頼朝から追われている義経だが、これがなかなか正面から写されることはない。たいてい背中を向けた姿で写されており、顔を絶対に見せないように大きな笠を被っている。まあ、もちろんストーリー上、追われている身であり姿を周囲にさらすことはできないのだが、それにしても冒頭近くの場面で、義経の背中姿を捉えた映像は、神秘的なベールに包まれているという雰囲気があり、この映像の意味するのは何かということを時代と絡ませて解釈したくなるものである。
ところで、映画とはあまり関係ないが、弁慶と義経という関係はやはり怪しい。この二人の物語というのは、推測なのだけど、たいてい義経が女性性を帯びることが多いのではないか。この映画でもやっぱり女性的な義経像というのがはっきり見て取れる。だから、おなじみの弁慶が義経を打つシーンなどは、SMのシーンだと言えなくもない(過剰な読みかもしれないが…)。義経と弁慶というのは、サブカルチャーのほうでパロディ化されているのではないか、そんなことを考えてしまった。
今日の目的は、実はこの『豪傑児雷也』を見ることであった。これは映画史を読むと必ず登場する、当時大人気であった「目玉の松ちゃん」と呼ばれた尾上松之助が主演の映画である。松之助は日本映画最初のスターといえる存在で、1000本ちかい作品に出たそうである。
この映画は、無声映画なので、弁士付きで見た方が良いのだろうが、とにかく映像を見ているだけでも面白い。現在の技術から見れば稚拙なトリック映像なのだが、松之助がぱっと一瞬で姿を消して別な場所に移動したり、殺陣の最中、瞬間的に大カエルに変身したり(なぜカエルに変身するのか分からないが)、殺陣のシーンにしても、全くただ戯れているとしか思えないような演技であったりする。要するに、この映画は物語を楽しみというより、この映像のトリックを楽しむ映画なのだ。人が消えたり、変身したり、空を飛んでいたり、そんな映像を見ておそらく当時の観客も楽しんだに違いない。

宝筭映画祭オフィシャルウェブサイト
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