村上春樹『騎士団長殺し』

村上春樹騎士団長殺し』新潮社

 理由は分からないが、妻に突然離婚したいと言われた「私」はそれを受け入れる。傷ついた「私」は車で東北地方を転々と旅をする。旅から戻ると、友人を頼り、友人の父親がかつて住んでいた家に住むことになる。そこで、ある絵画を見つけたことによって、「私」の周りで不思議な出来事がおきる…

この長編小説(上下巻、ともに500ページ余り)に出てくるモチーフも、これまでの村上春樹の小説に出てきたモチーフばかりである。物語のパターンもおなじみのものだと言えよう。夢、性的なこと、穴(地下)、父親、戦争、災害など。ファンタジーな物語の中に、歴史が挿入される。この小説では、1938年にドイツと中国で起きた歴史的事件に深く傷つけられた人物たちが現れる。心の傷を負った人たちが、その傷とどう向き合うのか。

「父親」という面から読めば、「私」と「免色」という人物は対照的に描かれることになる。「免色」という人物は、色が免れている、つまり色がないということから考えると、「多崎つくる」と結びつけて考えたくなる人物でもある。あるいは、「多崎つくる」が「私」と「免色」の源であると解釈するほうがよいのかもしれない。「多崎つくる」から派生した人物が「私」であり「免色」という人物と思える。『騎士団長殺し』では、「私」と「免色」を通じて、父であること、父になることは何なのかを語っていると思った。 

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本
 
騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2017/02/24
  • メディア: 単行本